悪意の遺棄
悪意の遺棄とは
正当な理由なく、夫婦の義務である同居・協力・扶助義務に違反する行為をすることを、悪意の遺棄といいます。
悪意とは、遺棄の事実や結果の発生を認識しているだけではなく、夫婦関係の廃絶を企図し、またはこれを容認する意思と考えられています。
例えば、正当な理由もなく、 配偶者や子どもを放置して、自宅を出て別居を継続している収入があるにもかかわらず、生活費などを一切支払わない、といった場合があります。
判例は、夫が家を飛び出して身体障害者(4級)で半身不随の妻を自宅に置き去りにし、長期間全く生活費を送金しなかったという事案において、妻からの離婚請求に際し、夫の行為は悪意の遺棄に当たるとして離婚を認めています。
婚姻関係が破たんした後に別居した場合、悪意の遺棄にはあたりません。
実際には、悪意の遺棄が問題になる事案では、不貞行為、婚姻を継続し難い重大な事由等の離婚原因が併せて主張され、争われます。
同居義務違反と悪意の遺棄
夫婦は同居し、互いに協力し、扶助する義務があります)。この義務を履行しなかった配偶者は、正当な理由がない限り、相手方配偶者を悪意で遺棄したことになります。夫婦の一方が正当な理由なく別居を開始した場合、その行為は同居義務違反、悪意の遺棄に当たり、婚姻関係破綻について当該配偶者に主たる責任があるとして当該配偶者からの離婚請求が認められにくくなったり、当該配偶者が他方配偶者から慰謝料などを請求されたりする場合があります。
もっとも、上記にいう同居義務違反は、単に形式的に同居義務に違反している場合すべてをいうのではなく、不当な同居義務違反に限られます。夫婦の一方が同居を拒否した場合でも、同居拒否についてその者に正当な理由がある場合には、同居義務違反には該当しません。夫又は妻が、職業上の理由から単身赴任する場合や、子どもの教育上の理由・経済的理由のため、あるいは夫婦の一時的な争いの冷却の必要性などから、一時的に別居することが望ましい場合などには、同居義務違反にはなりません。
同居拒否の正当理由があるか否かを判断するに際しては、同居による円満な婚姻関係の回復可能性があるか否か、夫婦の婚姻関係が破綻しているか否かを考慮するのが実務の傾向です。配偶者の暴行・虐待・不貞などの有責行為のため同居に耐えられなくなった他方の配偶者が別居しても、同居拒否の正当理由があり、同居義務違反にはなりません。