履行命令について
- コラム
離婚事件その他の家事事件に関する調停または審判で定められた義務について、履行を確保する方法の一つとして、履行命令の手続きがあります。
履行命令とは
権利者の申立により、家庭裁判所は、調停や審判で定められた金銭の支払いその他財産上の給付を目的とする義務の履行を怠ったものがある場合に、相当と認めるときは、義務者に対して、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずる審判をすることができます。
そして、家庭裁判所は、義務者が正当な理由なく定められた期限までにその命令に従わないときは、義務者について10万円の過料に処することがきます。
これによって、強制執行手続によらずに履行の実現を目指す制度を履行命令といいます(家事事件手続法290条)。
履行命令の制度趣旨
家事事件についての財産上の給付の目的の多くは、権利者が、日常生活を送るうえで必要なものであると考えられています。
そのため、通常の民事事件等の場合より、正当な理由なく義務の履行をしない者に対しては、道徳上強く非難されること、家事事件の債務については強制執行が簡単に行われにくいことなどを考慮して設けられたのが履行命令の制度です。
履行命令は、家事事件の債務の義務者を心理的に強制して義務を履行させるものであり、履行確保の手段の一つとして活用されることが期待されています。
履行命令の手続
申立て
- 履行命令は、権利者の申立てが必要となります。
- 申立ては、書面または口頭で行うことができます。
- 申立てには手数料が必要となります。
管轄裁判所
履行命令は、その義務を定めた審判または調停等をした家庭裁判所となります。
ただし、抗告審である高等裁判所が審判等をした場合には、第一審裁判所である家庭裁判所の管轄となります(家事事件手続法290条1項)。
履行命令の対象
履行命令の対象となる義務は、審判、調停、調停に代わる審判により定めらえた金銭の支払その他財産上の給付を目的とする義務に限られます。
そのため、面会交流に応じる義務や、夫婦同居の義務などは含まれまず、この点において履行勧告の手続きと異なりますので注意が必要です。
また、給付義務を定めただけで給付義務を命じていない審判は、履行命令の対象となりません。
履行命令の要件
相当と認めるとき
履行命令は、裁判所が相当と認めるときになされます。それでは、「相当と認めるとき」とは、どのような場合をいうのでしょうか。
相当性は、義務者の不履行の程度、不履行の理由、履行する能力、生活状況などを総合的に考慮して判断されると考えられています。
過料という制裁をもって、間接的に強制される命令が出されることが適当と認められる場合に、履行命令が出されるのです。
義務者の陳述聴取
家庭裁判所は、履行命令を出すにあたって、義務者の陳述を聴かなければなりません(家事事件手続法290条2項)。
なお、陳述の機会を与えれば足り、義務者が正当な理由なく家庭裁判所の呼び出しに応じない場合は、そのまま履行命令を出すことができると考えられています。
履行の命令
家庭裁判所は、義務者に対し、相当の期限を定めてその義務の履行をすべきことを命ずる審判を行います(家事事件手続法290条1項)。
また、履行命令は、命令書を作成しなければならず、適切と認められる方法で足りるとされる履行勧告と異なります。
不服申立てを行うことはできない
履行命令の審判、履行命令の申立てを却下する審判に対しては、不服申立てを行うことはできません。
制裁
履行命令によって義務の履行を命じられた者が、正当な理由なく命令に従わないときは、家庭裁判所は、10万円以下の過料に処することになります。
履行命令の手続の終了
履行命令申立事件は、命令の発令、申立の却下、申立の取下げによって終了します。
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