配偶者の認知症を理由とする離婚が認められるか
- 離婚原因
配偶者が認知症を患ってしまった場合、婚姻生活を続けることが辛いと思われる方もいらっしゃるでしょう。このような場合、離婚を考えることも、仕方がないことなのかもしれません。
それでは、配偶者が認知症を患ってしまったことを理由として、離婚は認められるのでしょうか。
配偶者の認知症を理由に離婚できるか
配偶者の認知症を理由としてして離婚できるかですが、できるケース、できないケースがあります。
離婚方法として、下記の3つの方法が考えられます。
離婚できるケース
認知症が軽度である場合は、協議離婚、調停離婚において、夫婦双方が離婚に合意すれば離婚することが可能です。
家庭裁判所を利用するか、しないかの違いはありますが、離婚する理由については問われませんので、配偶者の認知症を理由として離婚できるケースとなります。
離婚できないケース
夫婦の一方が離婚に応じない場合、離婚するためには離婚訴訟を提起しなければなりません。
裁判離婚の場合、離婚請求をするためには民法770条1項で定められた下記の離婚事由が必要となります。
認知症は強度の精神病として認められるか
認知症を理由とする離婚請求の事例として長野地方裁判所 平成2年9月17日判決があります。
この事例では、妻はアルツハイマー病及びパーキンソン病と診断された後、家事も次第にできなくなり、通常の会話もできなくなりました。その後も症状は悪化し、歩行も困難となりおむつを当てるようになりましたが、夫は世話をつづけました。そして診断から3年後には特別養護老人ホームに入居し、医師より痴呆の程度は重度で回復の見込みはないと診断されました。
妻は夫が夫であることも認識できなくなっていたため、夫が民法770条1項4・5号により離婚を請求しました。
裁判所はアルツハイマーに罹患している状態を「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」に該当すると認めませんでしたが、妻は長期間に渡り夫婦の協力義務を果たせず婚姻関係が破綻しているとして「その他婚姻を継続し難い重大な事由」により離婚を認めました。
このように、重度の痴呆症と診断されても、裁判所からは民法770条1項4号により「強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」と判断される可能性は低いといえるでしょう。
認知症以外の原因があれば離婚が認められる可能性もある
上述のとおり、配偶者が認知症であるだけでは裁判所から離婚が認められる可能性は低いです。
しかし、認知症を契機として、配偶者の性格や人格が変わってしまうことはよくあることです。
下記のような婚姻を継続することが難しいと思われる事情があれば、離婚が認められる可能性があります。
・認知症の配偶者からDVやモラハラを受けている
・長期間に渡る別居状態である
・夫婦関係が破綻してしまって、お互いに関係を修復する意思がない
注意点
認知症が進行し、意思能力がないと判断される場合には、協議離婚や調停離婚を行うことはできません。そのため、離婚訴訟を提起することになりますが、意思能力がない配偶者は裁判を行うことも、弁護士に依頼することもできません。
その場合、まずは意思能力がない配偶者に後見人をつけてもらうよう家庭裁判所に審判の申立を行う必要があり、選任された成年後見人を代理人として、配偶者に対して離婚訴訟を提起することとなります。
認知症の配偶者と裁判離婚する方法
上述の長野地方裁判所の事例のように、認知症の配偶者に対する離婚請求は、認知症の程度と介護の実績、離婚後の痴呆症の配偶者の生活の見通しがあれば認められる可能性があるといえるでしょう。
配偶者が認知症になったからといってすぐに離婚できるわけではありません。まずは実績作りから始めるべきであるといえます。
まとめ
配偶者が認知症になってしまった場合、それまでと同様の婚姻生活を送ることは難しくなります。しかし、配偶者の認知症を理由として離婚することは簡単な問題ではありません。認知症を患う配偶者との離婚についてお考えの方は、一度弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
- 2023.03.02
双方が離婚に同意している場合に離婚原因が認められるか - 2021.12.13
配偶者の両親の介護を理由とする離婚が認められるか - 2021.11.22
配偶者の統合失調症を理由とする離婚が認められるか