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子どもが進学したことを理由とする養育費の増額について

  • 養育費

 子どもの高校や大学への進学を考慮せずに養育費について合意がなされた場合、いざ子どもが高校・大学への進路が決まれば、養育費の増額請求はできるのでしょうか。

 本コラムでは、子どもが進学したことを理由とする養育費の増額について解説いたします。

事情変更による養育費の増額

 養育費の金額の変更について、当事者同士が協議により合意する場合は、事情変更の有無とは関係なく養育費の増額が可能です。

 協議による合意がうまくいかない場合、調停調書の作成により債務名義を得たい場合、既存の債務名義を新たな調停調書により変更したい場合には、養育費増額調停を申し立てることになります。調停で合意ができなければ、調停は不成立となり、審判へ移行します。

 審判では、当事者の主張と提出された資料から、一度取り決めた養育費の金額を変更することが相当といえる事情の変更が存在するかどうかを、裁判官が審理し、審判を出します。

事情の変更が認められるための判断要素としては、以下のものが挙げられます。

  • 合意または審判の基礎となった事情に変更が生じたこと
  • 合意または審判の時には、事情の変更を当事者が予見できなかったこと
  • 合意または審判で定められた養育費の支払を維持することが相当でないと認められる程度に重要な事情な変更であること

進学を理由とする養育費の増額

 それでは、子どもの進学は事情の変更といえるのでしょうか。

 この点、養育費の合意をした当時、子どもがまだ幼ければ、高校や大学への進学については将来の不確定な事由であったといえますので、高校や大学への進学が明確となった場合には、事情の変化があったものといえるでしょう。もっとも、養育費の増額は、子供の年齢の変化、義務者と権利者双方の収入や家族構成にもよるので、必ずしも増額請求が認められるわけではありません。

私立高校や大学への進学について

 家庭裁判所が養育費の算定のために実務上利用している「養育費算定表」において考慮される学校教育費は、「標準的な教育費」として公立の高校に通った場合の授業料や通学費用等を考慮して作成されています。そのため、高額となりがちな私立高校や大学の学費は考慮されていません。そのため、私立高校や大学への進学が決まったからといって、当然には義務者に費用負担を請求することができるわけではありません。

 もっとも、以下のような場合は、増額請求できる可能性が高いものと考えられます。

  • 義務者が進学について「承諾」または「同意」している場合(明示的なもののみならず、黙示的なものも含む)
  • 両親も高学歴である場合
  • 義務者が高収入である場合
  • 離婚時に進学中である、もしくは進学が決定している場合

増額費用と負担割合

 増額の対象となる費用としては、入学金、授業料、交通費などの費目が考えられます。また、分担割当についても父母で2分の1ずつ分担する方法もあれば、それぞれの基礎収入に応じた負担という考え方なども存在します。いずれにしても、事案に応じて裁判所の裁量により決定されることになります。

過去の判例

 以下は、高等教育機関に進学した子ども自身が親に対して行った扶養料に関する処分事件の事例ですが、その考え方については、養育費の取決めにおいても参考になると考えられます。

東京高裁平成22年7月30日決定

 一般に、成年に達した子は、その心身の状況に格別の問題がない限り、自助を旨として自活すべきものであり、また、成年に達した子に対する親の扶養義務は、生活扶助義務にとどまるものであって、生活扶助義務としてはもとより生活保持義務としても、親が成年に達した子が受ける大学教育のための費用を負担すべきであるとは直ちにはいいがたい。

 もっとも、現在、男女を問わず、4年制大学への進学率が相当に高まっており、こうした現状の下においては、子が4年制大学に進学した上、勉学を優先し、その反面として学費や生活費が不足することを余儀なくされる場合に、学費や生活費の不足をどのように解消・軽減すべきかに関して、親子間で扶養義務の分担の割合、すなわち、扶養の程度又は方法を協議するに当たっては、上記のような不足が生じた経緯、不足する額、奨学金の種類、額及び受領方法、子のアルバイトによる収入の有無及び金額、子が大学教育を受けるについての子自身の意向及び親の意向、親の資力、さらに、本件のように親が離婚していた場合には親自身の再婚の有無、その家族の状況その他諸般の事情を考慮すべきであるが、なお協議が調わないとき又は上記親子間で協議することができないときには、子の需要、親の資力その他一切の事情を考慮して、家庭裁判所がこれを定めることとなる。

(中略)

 相手方は、…母Aとの離婚後、抗告人との間に交渉等はなく、抗告人が大学に進学したことは知らなかったものであり、あらかじめ抗告人の大学進学について積極的な支持をし又は同意をした事実は認められない。また、相手方は、…財産分与として判決で命じられた金員を支払い、抗告人及びその弟Bの養育費も怠りなく支払ってきたものであり、相手方は、抗告人に対する親としての生活保持義務を履行しているものである。相手方は、現在、その年収額が1500万円を超えることは前記認定のとおりであるが、今後とも同程度の収入を得ることが見込まれる(審問の全趣旨)。しかし、…相手方は、平成20年×月×日に再婚し、平成21年○月○日に子が生まれたものであるから、子の成長に伴い一層生活費、住居費、教育費等の金銭的負担が増加するものとうかがえるほか、Bの養育費の支払がなお約2年半残っており、必ずしもその収入や資産に大きな余力があるとまでは認められない。…相手方は、大学を卒業した者であるが、前記した昨今の大学進学の状況からすれば、抗告人の能力及び学業成績に照らせば、相手方においても同人の大学進学は予想された出来事であると認められ、全く予期しないものであると認められる格別の事情をうかがわせるに足りる的確な資料は見出されない。

(中略)

 そうすると、裁判所は、本件について、当事者間で協議が調わないときなどにおいて家事審判事項に係る手続中における相手方の上記意向その他前記した一切の事情を考慮して、扶養義務の分担の割合、すなわち、扶養の程度及び方法を決すべきであるから、上記一定の限度において、相手方に抗告人の扶養料を負担させるのが相当であると解する。

大阪高裁平成29年12月15日決定

 原審相手方は、母への離婚申入れ当時(原審申立人15歳)から、月々支払う養育費には学費を含んでいるが、原審申立人が私立大学の医学部に進学した場合に養育費とは別に大学在学中の費用をできるだけ負担する旨申し出ている。そして、原審相手方の属性をみると、父親が医師で、自らも医師として稼働し、本件離婚時点には、開業医として高額な収入を得ており、その状況に変わりはない。その上、原審相手方は、原審申立人から、高校卒業後の進路について相談を受けた際、医学部への進学も考えている旨聞かされて賛同する意向を示しており、その間、原審申立人が私立大学の医学部へ進学することを否定する旨明言した形跡はない。そのような中で、原審相手方は、原審申立人が私立高校3年生で大学受験を控えていた本件離婚時に、子らの養育費(1人当たり月額25万円)の支払とは別に、私立大学の医学部に進学する場合を想定した本件協議条項に合意しているのである。

 以上のとおりの本件協議条項の文言に加え、本件協議条項を合意するに至った経緯、原審相手方の属性、原審申立人の進路等に関する原審相手方の意向等を総合考慮すれば、原審相手方は、本件離婚当時、原審申立人が私立大学医学部への進学を希望すればその希望に沿いたいとし、その場合、養育費のみでは学費等を賄えない事態が生じることを想定し、原審申立人からの申し出により一定の追加費用を負担をする意向を有していたと認めるのが相当である。

(中略)

 しかし、原審申立人が本件医学部に進学したことで、本件離婚の際に合意された養育費(一時金を含む。)では私立大学の医学部の学費等を賄えないという本件協議条項の想定した事態が現に生じている。したがって、原審申立人が原審相手方に対して本件協議条項に基づき追加の費用負担を求めている以上、原審相手方は、これに従い、上記の養育費のほかに一定の扶養料を分担する義務を負うというべきである。

まとめ

 以上のように、子どもが進学したことによる養育費の増額請求は可能ですが、さまざまな事情を考慮する必要があり容易ではありません。進学が不確定な時点においても、進学時に別途養育費について協議するなどの条項を入れておくことをおすすめいたします。

 養育費の増額についてお悩みの方は、ご相談いただければと思います。