養育費を支払わないと合意した後の養育費の請求について
- 養育費
とにかく早く離婚したい、どうしても親権を取りたい、離婚後は子どもと合わせたくないなど、様々な理由をもって、養育費を支払わないとの合意のもとに離婚が成立するケースがあります。
しかしながら、その後、子どもの事情や、父母双方の収入状況をふまえて、やはり養育費を請求したいと考えるようになる場合もあろうかと思われます。
本コラムでは、養育費を支払わないと合意した後の養育費の請求について解説いたします。
養育費不払の合意の問題
養育費は、未成熟の子が親から扶養を受ける権利であるため、父母間での養育費不払の合意をすることはできるのか、また合意したとしても法律に違反するのではないかが問題となります。
父母間での合意の効力
この点、合意が有効と考えらえる場合と、無効と考えられる場合があります。
離婚後に子どもが困窮することが明白であるような場合や、強迫などによって養育費不払の合意がなされた場合は、無効になる可能性が高いといえます。
養育費不払の合意が有効であっても養育費を請求できる場合
事情の変更
父母間で養育費不払の合意がなされていたとしても、その後の事情に変更を生じたときは、民法880条に基づき養育費の請求ができると考えられています。
Xが徳島家庭裁判所においてY及びYの両親と調停離婚及び調停離縁をした際、YはXに対し、子どもらの養育はYにおいて行なう旨口頭で約したことが認められる。
ところで、民法880条は、「扶養をすべき者若しくは扶養を受けるべき者の順序又は扶養の程度若しくは方法について協議又は審判があつた後事情に変更を生じたときは、家庭裁判所は、その協議又は審判の変更又は取消をすることができる。」と規定しており、右規定の趣旨からすれば、XとYが離婚する際Yの方で子供三人全部を引取りその費用で養育する旨約したとしても、その後事情に変更を生じたときは、YはXに右約定の変更を求め、協議が調わないときは右約定の変更を家庭裁判所に請求することができるものというべきである。
大阪高裁昭和56年2月16日決定
ただし、事情の変更は、養育費不払の合意当時に想定しておらず、請求を求めることが相当といえる程度であることが必要と考えられます。
養育費不払の合意時から収入が大幅に減少した場合には請求が認められる可能性がありますが、単に子どもの成長によってそれに応じた教育費が増加したといった理由では、事情の変更は認められないものと考えられます。
子どもからの扶養請求
直系血族及び兄弟姉妹は、互いに扶養をする義務がある。
民法877条1項
民法877条1項規定のとおり、親は子を扶養する義務を負っており、子は親に対して扶養を請求することができます。これを扶養請求権と呼びます。
扶養を受ける権利は、処分することができない。
民法881条
また、民法881条では、この扶養請求権は処分することができないと定められています。離婚後に親権者となる親が子どもを代理して扶養請求権まで放棄するという合意がなされたとしても、そのような合意は無効と考えられています。
子どもの扶養請求権と親からの養育費請求権とは別の扱いとなり、養育費不払の合意に影響されることはなく、扶養請求が可能と考えられています。
Xが長男Aと二女Bを引き取るにあたってYに対し養育費を請求しない旨の念書を差し入れた事実は本件記録により認めることができる。しかしながら仮にXが右念書を差し入れることによって、AとBの親権者として右両名を代理し、Yに対して生ずる将来の扶養請求権を放棄したものであれば、およそ扶義料請求権はあらかじめ処分することのできないものである(民法881条)から、その効力がないことは明らかである。
また仮にXが長男Aと二女Bの扶養義務者として、他の扶養義務者たるYとの間でXが負担する養育費をYに求償しないことを定めたにすぎないものであれば、右協議は両扶養義務者間でいわば債権的な効力を持つにすぎないから、被扶養権利者たるAとBとがその具体的必要に基づいてYに対し扶養料の請求をすることは何ら妨げられないはずである。
従つて右念書がAおよびBのYに対する本件扶養料請求に当つて何らかの意味を持ちうるとすれば、右念書はXがAとBとを引き取つた時点において、AとBの親権者たるXが両名の代理人として、その当時の状況のもとでは右両名にYに対する扶養請求権が具体的に発生していないことを確認し或いは具体的に発生した扶養請求権を差し当り行使しない意思を表示したものと解するほかはない。
札幌高裁昭和43年12月19日決定
まとめ
このように、養育費の不払の合意があったとしても、養育費等の請求が認められる可能性は十分にあります。養育費の問題でお悩みの方は、お早めにご相談ください。
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