医者・医師・歯科医師を夫にもつ妻の離婚について ~離婚に伴う財産分与において、医療法に基づいて設立された医療法人に係る夫婦名義の出資持分のほか、夫の母名義の出資持分をも財産分与の基礎財産として考慮し,医療法人の純資産価額に0.7を乗じた金額を出資持分の評価額として財産分与額を算定した事例~
- 医者・医師・歯科医師
旧医療法人について、3000口の出資のうち2900口が夫、50口が妻、50口が夫の母の名義とされている場合の財産分与が問題となっていたところ、夫側は、
①当該医療法人の保有資産は財産分与の対象にならない
②夫の母名義の出資持分は財産分与の対象にならない
③当該医療法人からの退社又は当該医療法人の解散により出資の払戻し又は残余財産の分配が現実化するまでに高額な医療機器に係るリース契約の締結などの不確定的なリスクが存在するから、現時点で出資持分の評価をすることは不可能
④純資産価額の算定に当たって、将来発生する退職金債務や税金を控除すべき
⑤財産分与金の即時支払を命ずるのなら、想定される退社時あるいは解散時までの中間利息を控除すべき
⑥財産分与金の支払期は退社時又は解散時とすべきなどと主張しておりました。
夫の主張に対し、大阪高裁平成26年3月13日判決は、
「本件医療法人設立後職員が若干増員されたものの、本件診療所における業務を継続するのに必要なものとして所有する資産や本件診療所の実質的な管理、運営実態等に大きな変化はなく、控訴人(夫)が形式上も出資持分の96.66パーセントを保有していることを考えると、本件医療法人が所有する財産は、婚姻共同財産であった法人化前の本件診療所に係る財産に由来し、これを活用することによってその後増加したものと評価すべきである。そうすると、控訴人(夫)名義の出資持分2900口のほか、形式上控訴人(夫)の母が保有する出資持分50口及び被控訴人(妻)名義の出資持分50口の合計3000口が財産分与の対象財産になるものとしてその評価額を算定し、控訴人(夫)が被控訴人(妻)名義の出資持分について財産分与を原因として控訴人(夫)に対する名義変更を求める旨の附帯処分の申立てをしていないことを考慮して、対象財産の総額に被控訴人(妻)の寄与割合を乗じて得た金額から,被控訴人(妻)名義の出資持分の評価額を控除する方法によって最終的な財産分与額を算定するのが相当である。」
「本件医療法人の出資持分の評価額を算定するに当たっては、収益還元法によって出資持分の評価額を算定し得るような証拠が提出されているわけではなく、純資産価額を考慮して評価せざるを得ない(最高裁平成22年7月判決参照)。
もっとも、医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの)に基づいて設立された医療法人については、社団たる医療法人の財産の出資社員への配分については、収益又は評価益を剰余金として社員に分配することを禁止する同法54条に反しない限り、基本的に当該医療法人が自律的に定めるところに委ねており、本件医療法人のように医療法人の定款に当該法人の解散時にはその残余財産を払込出資額に応じて分配する旨の規定がある場合においては、同定款中の退社した社員はその出資額に応じて返還を請求することができる旨の規定は、出資した社員は、退職時に、当該医療法人に対し、同時点における当該法人の財産の評価額に、同時点における総出資額中の当該社員の出資額が占める割合を乗じて算出される額の返還を請求することができることを規定したものと解されるところ、こうした返還請求権の行使が具体的な事実関係の下においては権利を濫用するものとして制限されることもあり得る(最高裁平成22年4月判決参照)。また、弁論の全趣旨によれば、控訴人(夫)は、当分の間、本件医療法人において医師として稼働する意思を有していることが認められ、形式上も96.66パーセントの出資持分を保有する控訴人が、現時点において本件医療法人に対して退社した上出資持分の払戻を請求するとは考えられない。さらに、将来出資持分の払戻請求や残余財産分配請求がされるまでに本件医療法人についてどのような事業運営上の変化などが生じるかについて確実な予想をすることが困難な面がある。こうしたことを考慮すれば、本件医療法人の純資産評価額の7割相当額をもって出資持分3000口の評価額とするのが相当である」
「証拠・・・及び弁論の全趣旨によれば、本件医療法人は、法人としての実体を有する医療法人であって、多数の通院患者を擁し、従業員を雇用するなどして対外的な活動をしていることが認められるところ、医療法(平成18年法律第84号による改正前のもの)が、医療法人がその業務を行うに必要な資産を有しなければならない旨を定め(同法41条1項)、医療法人の資産に関して必要な事項を厚生労働省令で定めることとするとともに(同条2項)、剰余金の配当をしてはならないものと定めており(同法54条)、同法41条2項に基づいて制定された医療法施行規則30条の34が、医療法人は、その開設する病院、診療所又は介護老人保健施設の業務を行うために必要な施設、設備又は資金を有しなければならないとしていることを考慮すれば、本件医療法人の保有資産を控訴人と被控訴人という個人間ですべて清算して分配するかのごとき取扱いをすることは相当とはいえない。」
「本件医療法人が控訴人(夫)と被控訴人(妻)の婚姻届出後に開設され、控訴人(夫)が経営してきた旧診療所を引き継いだ本件診療所を法人化して設立されたものであることなどを考慮すると、控訴人(夫)の母名義の出資持分をも財産分与の対象財産とするのが婚姻届出後別居時までに形成された婚姻共同財産を清算するという財産分与制度の趣旨目的に副うものというべきである。」
「清算的財産分与は、別居時の財産を対象とし、時価評価すべきものがあれば、事実審の口頭弁論終結時をその基準時とするのが相当であるところ、法律的には控訴人(夫)が医師の資格を有する者に出資持分を有償譲渡して退社し、理事長等の地位を承継させることによって出資持分の現金化をすることも可能であることを考慮すれば、控訴人(夫)の主張するような本件医療法人の解散時の残余財産分配の見込額から清算所得に対する法人税額、控訴人(夫)に対して支払うことを予定する退職金支払見込額及び中間利息を控除した金額をもってそのまま出資持分の評価とすることは相当でないし、上記のとおり出資持分を譲渡して退社する時期を現時点において具体的に認定し得るものでもないことを考慮すれば、その時点において控訴人(夫)に対して支払うことを予定する退職金見込額を考慮して算定した出資持分の払戻見込額から中間利息を控除した金額をもって出資持分の評価とすることも相当とはいえない(清算所得に対する法人税額の控除や退職金支払見込額の控除を否定したものとして、最高裁昭和50年(オ)第326号同54年2月23日第二小法廷判決・民集33巻1号125頁参照)。
なお,将来の流動的な要素については、前記・・・で説示したとおり、本件医療法人の純資産価額の全額をもって出資持分の評価額とするのではなく、7割相当額をもって出資持分の評価額と解することによって考慮済みである。」
と判断しております。
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