婚姻費用と財産分与~過分な婚姻費用の支払が財産分与において考慮されるかが問題となった事例(大阪高決平成21・9・4)
- 婚姻費用
争点
夫婦関係が破綻した後に、夫婦の一方が、いわゆる標準的算定方式に基づいて算出した額を上回る婚姻費用分担金を支払った場合、その超過分を財産分与の前渡しとして評価されるか
裁判所の判断
別居中の夫婦の婚姻費用分担については、その資産、収入その他一切の事情を考慮して定められるものであり(民法760条)、当事者が婚姻費用の分担額に関する処分を求める申立てをした場合(家事審判法9条1項乙類3号)には、調停による合意をするか、審判をすることになる(同法26条1項)。したがって、当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて婚姻費用分担をしている場合に、その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて、著しく相当性を欠くような場合であれば格別、そうでない場合には、当事者が自発的に、あるいは合意に基づいて送金した額が、審判をする際の基準として有用ないわゆる標準的算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下)に基づいて算定した額を上回るからといって、超過分を財産分与の前渡しとして評価することは相当ではない。
コメント
1 婚姻費用とは
婚姻費用の制度趣旨は、配偶者のうち収入の高いほうが、低い方に一定額を給付することで、夫婦である以上は同程度の生活を送れるようにするべきというもので、民法760条を根拠に認められております。
また、婚姻関係が破綻した後であっても、婚姻費用分担請求権は認められます。
婚姻費用の適正額は、標準算定方式によって算定されるのが通常であり、婚姻費用算定表が活用されます。
2 未払婚姻費用がある場合
婚姻費用を支払っていない場合において、判例では、「裁判所が財産分与の額および方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものであることは、民法771条、768条3項の規定上明らかであるところ、婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから、裁判所は当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の生産のための給付をもの含めて財産分与の額および方法を定めることができると解するのが相当である」(最高裁第三小法廷昭和53年11月14日 民集32巻8号1529頁)としており、財産分与で考慮することを肯定しています。
3 過払い婚姻費用がある場合
本事例のケースのように、標準算定方式により算定した場合との差額の既払額について、財産分与の先渡しと評価できるかが問題となります。
大阪高裁は、この点について、「その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて、著しく相当性を欠くような場合であれば格別」と留保をつけた上で、原則的には超過分を財産分与の先渡しとは評価できないとしました。
本事例では、標準算定方式との差額が4~10万でしたが、「著しく相当性を欠く」とは判断されませんでした。
「著しく相当性を欠く」の判断基準については、今後の裁判例等の蓄積を待つことになります。