退職金の財産分与➀ ~財産分与の対象となるか否かについて~
- 財産分与
夫婦が婚姻期間中に協力して形成、維持してきた財産は共有財産として財産分与の対象となりますが、退職金はどのような扱いを受けるのでしょうか。
本コラムでは、退職金が財産分与の対象となるか否かについて解説いたします。
退職金が財産分与と対象となるか
退職金が財産分与の対象となるかどうかは、退職金の性質によって分かれます。この点、一般的に、企業の退職金規程等に基づいて支給される退職金は、賃金の後払い的性質を有するというのが有力な見解となっています。
このような場合、婚姻期間中に協力して形成、維持した財産と評価できるため、退職金は財産分与の対象となるといえます。
もっとも、労働の対価としての性質が含まれていない場合は、財産分与の対象となる退職金に該当しないと判断される可能性があります。
相手方が914万4000円を取得したのは、離婚後約1年を経過した時点であり、かつ離婚時にはその支給が決定されていなかったものであり、しかも支給の趣旨は勤務先の合併に伴う相手方の爾後2年間の生活補償というものであるから、この支給時期、態様及び趣旨からして、同金員が財産分与の対象となる退職金あるいは功労金に該当すると認めることはできない。
東京家庭裁判所八王子支部平成11年5月18日審判
退職金が財産分与の対象と評価される場合であっても、退職金が既に支払われているか、まだ支払われていないかで精算方法が異なります。
退職金が既に支払われている場合
退職金が既に支払われている場合、財産分与の基準時に現存する場合に限り、清算の対象となります。もっとも、退職金はそのまま貯金している場合のみならず、他の資産に変化している場合なども考えられます。その場合、変化後の資産の種類のまま精算対象となります。
例えば、支給された退職金を原資として不動産や証券等を購入していた場合、退職金が形を変えて残存していると評価することができます。よって、これらの財産に対して、他方配偶者の寄与率分に応じた分与を認めることになります。
もっとも、退職金が財産分与の基準時から相当前に支給され、退職金が形を変えて残存していると評価することが難しい場合、退職金の支給時にさかのぼって、夫婦の共有財産の変動状態を銀行の取引履歴から精査する必要があります。相手方が任意の開示を行わない場合は、調査嘱託等を活用することが考えられます。
退職金がまだ支払われていない場合
いまだ支払われていない将来の退職金であっても、離婚時に退職金の支給が確定している場合は、財産分与の対象となると判断されるでしょう。
しかし、支給が確定的とはいえない場合、どのように取り扱われるかが問題となります。
退職金の支払いが確定的であるかどうかは、下記の点から総合的に判断することとなります。
- 就業規則等に退職金についての定めがあるか
- 会社の規模・経営状況
- 相手方の勤務状況
- 退職金が支払われるまでの期間