骨董、古美術、絵画などのアート作品の財産分与 ~時価の算定と譲渡所得税について~
- 財産分与
配偶者の一方や双方が趣味で高価な絵画を集めたり、骨董品を収集したりしている場合があります。
骨董、古美術、絵画などのアート作品は、専門的な知識を有しない限り、その物の「価値」がわかりにくく、評価が難しいものです。
本コラムでは、骨董、古美術、絵画などのアート作品の財産分与について解説いたします。
アート作品の価値の把握
骨董、古美術、絵画などのアート作品などの動産は、現在価値(時価)を算定して、分与割合に応じて分与することになります。
評価方法は以下の2種類に大別することができます。
- 売買実例価額
- 精通者意見価格
売買実例価額とは、中古市場における相場です。中古市場に出回っていない物に関しては、類似する物の価額を参考にして評価を行います。
また、精通者意見価格とは、美術商や画商、鑑定士などの専門家による評価額のことをいいます。
骨董、古美術、絵画などのアート作品の多くは唯一無二の存在であり、人気や希少度によって値が増減するため市場価格を算出しにくい傾向があります。そのため、評価額を算出する場合は精通者意見価格を求めるケースの方が多くなります。
財産分与と譲渡所得税
財産分与は、所得税法上の「資産」の譲渡にあたるとされています。
夫婦が離婚したときは、その一方は、他方に対し、財産分与を請求することができる(民法768条、771条)。この財産分与の権利義務の内容は、当事者の協議、家庭裁判所の調停若しくは審判又は地方裁判所の判決をまつて具体的に確定されるが、右権利義務そのものは、離婚の成立によつて発生し、実体的権利義務として存在するに至り、右当事者の協議等は、単にその内容を具体的に確定するものであるにすぎない。そして、財産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され、これに従い金銭の支払い、不動産の譲渡等の分与が完了すれば、右財産分与の義務は消滅するが、この分与義務の消滅は、それ自体一つの経済的利益ということができる。したがつて、財産分与として不動産等の資産を譲渡した場合、分与者は、これによつて、分与義務の消滅という経済的利益を享受したものというべきである。
最高裁第三小法廷 昭和50年5月27日判決
してみると、本件不動産の譲渡のうち財産分与に係るものが上告人に譲渡所得を生ずるものとして課税の対象となるとした原審の判断は、その結論において正当として是認することができる。
現金や預貯金、貸付金や売掛金などの金銭債権は、「資産」にあたらないとされているので、現金などの金銭債権を財産分与しても、譲渡所得税はかかりません。
一方、骨董、古美術、絵画などのアート作品は「資産」にあたり、以下のような考え方により、所得税がかかることがあります。
なお、書画、骨董及び美術工芸品であっても、1個又は1組の価額が30万円を超えないものについては課税の対象となりません。(所得税法施行令25条2号)
税率と計算方法
骨董、古美術、絵画などのアート作品を譲渡したときの譲渡所得に対する所得税及び住民税は、他の所得と合算して計算する総合課税の方法によります。
総合課税の譲渡所得は、その資産の所有期間により、短期譲渡所得と長期譲渡所得に分けられ、課税の対象となる金額が異なります。
- 短期譲渡所得…取得日から譲渡日までの所有期間が5年以下
- 長期譲渡所得…取得日から譲渡日までの所有期間が5年を超えている
譲渡所得の金額の計算方法は、以下の計算式から導くことができます。
譲渡所得の金額 = ①総収入金額 – (②取得費 + ③譲渡費用) – ④特別控除額
なお、短期譲渡所得の金額は全額が総合課税の対象となりますが、長期譲渡所得の金額はその2分の1が総合課税の対象となります。
財産分与する資産に短期譲渡所得と長期譲渡所得が混在する場合、以下の内部通算が行われます。
- 短期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合、長期譲渡所得の金額から控除
- 長期譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合、短期譲渡所得の金額から控除
総合課税の譲渡所得での通算によって控除しきれない損失の金額がある場合であっても、生活に必要のない動産である骨董、古美術、絵画などのアート作品は、他の各種所得の金額と損益通算することはできません。
①収入金額
財産分与をしたときの動産の時価が譲渡所得の収入金額となります。
②取得費
資産の取得に要した金額と設備費および改良費の合計額を取得費といいます。
骨董、古美術、絵画などのアート作品の取得費がわからない場合、譲渡収入金額の5%相当額を取得費とすることができ、概算取得費といいます。また、実際の取得費が譲渡収入金額の5%を下回る場合にも、この規定を適用することができます。
③譲渡費用
資産の譲渡のために直接かかった費用が譲渡費用となります。
分与者が動産の運搬費用を負担した場合などが、譲渡費用にあたります。
④特別控除額
総合課税の譲渡所得の特別控除額は、短期譲渡所得と長期譲渡所得の合計額に対して、最高50万円となっています。
譲渡所得の合計額が50万円以下のときは、その金額までしか控除することができません。
税額の計算
総合課税の対象となる各種所得の金額を一定の方法により合計した総所得金額から、所得控除の合計額を控除し、その残額に下表の税率を乗じて税額を計算します。
なお、平成25年から令和19年までは、下記のほか復興特別所得税として、原則としてその年分の基準所得税額の2.1%が課税されます。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000円から1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円から3,299,000円まで | 10% | 9万7,500円 |
3,300,000円から6,949,000円まで | 20% | 42万7,500円 |
6,950,000円から8,999,000円まで | 23% | 63万6,000円 |
9,000,000円から17,999,000円まで | 33% | 153万6,000円 |
18,000,000円から39,999,000円まで | 40% | 279万6,000円 |
40,000,000円以上 | 45% | 479万6,000円 |
※令和5年4月時点の税率です。