預貯金の財産分与~預貯金が債務の担保となっている場合の預貯金の評価方法が問題となった事例(名古屋家審平成10・6・26)
- 財産分与
婚姻期間中に夫婦双方の収入からお金を出して貯めた預貯金は夫婦共有財産であり、財産分与との対象となります。
本コラムでは、預貯金が債務の担保となっている場合の預貯金の評価方法が問題となった事例(名古屋家審平成10・6・26)を紹介いたします。
事件の概要
協議離婚した後に内縁関係を結び、その後内縁関係を解消した男女間において、妻から夫に対してなされた財産分与の申立てについて、内縁期間中の預金の増加から負債額を控除した実質的共有財産を基本とする清算的財産分与が認められた事例です。
争点
預貯金が債務の担保となっている場合の預貯金の評価方法
裁判所の判断
本件記録によれば、相手方は、A信用金庫に、相手方名義のほか申立人、長男及び長女の各名義の預金を有しており、その残高は、昭和61年7月31日時点で、相手方名義分1619万249円、申立人名義分1006万471円、長男名義分60万円、長女名義分71万8297円であったが、平成4年1月31日時点では、相手方名義分9709万3277円、申立人名義分2961万4898円、長男名義分260万732円、長女名義分283万6395円となったこと、したがって、相手方の預金は、上記二つの時点の間に、相手方名義分で8090万3028円、申立人名義分で1955万4427円、長男名義分で200万732円、長女分で211万8098円増加したこととなり、増加額の合計は1億457万6285円となること、他方、相手方は、A信用金庫に、平成4年1月31日時点で手形貸付債務を6680万円負っていたこと、上記手形貸付は、預金を担保としてなされたこと、以上の事実が認められる。
なお、相手方が、昭和61年7月31日時点において負債を負っていたことを認めるに足りる資料はない。
これらの事実によれば、上記手形貸付債務は、預金を担保としてなされていることに照らすと、実質的には預金の減少と見るべきであるから、その使途にかかわらず、清算すべき負の資産として、預金の増加額から控除すべきものと解する。
したがって、上記の預金の増加額1億457万6285円から負債額6680万円を控除した3777万6285円が、本件内縁期間中に実質的に増加した相手方の預金であるということができる。
なお、相手方は、相手方の経営するB株式会社の約8億円の債務につき連帯保証をしており、これらの債務を考慮すべきである旨主張する。しかし、これらの債務は、B株式会社の運営のために生じたものと推認され、申立人及び相手方の実質的な共有財産を形成するに当たり生じたものと認めるに足りる資料はないから、実質的共有財産の清算を目的とする清算的財産分与に関しては考慮に入れないのが相当である。
コメント
清算的財産分与において、借入金については夫婦の生活のために使用されたものと評価できない限りは、財産分与の対象としないことが公平であると考えられています。
しかし、本事例においては、預貯金を担保として借り入れが行われている場合には、実質的に預貯金は減少していると評価できるため、使途にかかわらず、財産分与で清算すべき負の財産となると判断しています。