不動産の財産分与⑫ ~自宅の敷地が借地の場合の財産分与について~
- 不動産
婚姻期間中に夫婦が取得した不動産は、その名義が夫または妻のいずれであるかにかかわらず、夫婦共有財産であり、財産分与との対象となります。
本コラムでは、財産分与を行うにあたり、自宅の敷地が借地の場合の財産分与について解説いたします。
借地権と借地建物の査定
借地権とは、建物の所有を目的として設定された地上権あるいは賃借権のことをいいます(借地借家法2条1号)。
借地権は民法上の賃借権と比べて、下記のような有利な点があります。
- 存続期間が最短30年に伸長
- 正当な理由がない限り期間満了による更新拒絶が認められていない
- 一定の場合に建物買取請求権が認められる
ただし、借地権の価格は一律ではなく、地域、契約内容、残存期間等によって大きく価格が異なってきますので、正確な時価を知りたい場合は不動産鑑定を活用することになります。
売却する場合の注意事項
自宅を第三者に売却する場合、売却前に借地権設定者に承諾を得ていないと、土地の借地権の無断譲渡があったとして、賃貸借契約を解除されてしまう可能性があることに注意が必要です。
第三者に売却した場合、第三者と借地権設定者が新たに賃貸借契約を締結することになります。
自宅を現物分与する場合
自宅を現物分与する場合においても、分与によって自宅の名義が変わると、土地の賃借権の無断譲渡となってしまいます。
賃借権に無断譲渡があった場合、原則として賃貸人は、土地の賃貸借契約を解除することができます。例外的に、当該賃借権の譲渡が賃貸人に対する背信的行為と認めるに足りない特段の事情がある場合のみ、賃貸人からの解除が認められなくなります。
裁判例
夫が宅地を賃借し妻がその地上に建物を所有して同居生活をしていた夫婦について、離婚に伴い、夫が妻へ借地権を譲渡した事案において、賃貸人は夫婦の同居生活および妻の建物所有を知って夫に宅地を賃貸したものである等の事情があるときは、借地権の譲渡につき賃貸人の承諾がなくても、賃貸人に対する背信行為とは認められない特別の事情があるというべきであるとしました(最高裁 昭和44年4月24日判決)。
土地の賃借権の譲渡の許可
上述のとおり、夫婦間で自宅を現物分割する場合は、事前に借地権設定者の承諾を得ておくべきであり、新しい自宅の所有者と借地権設定者との間で、新たな賃貸借契約を結ぶことが将来のトラブルを防ぐ上で望ましいです。
この点、第三者が賃借権を取得しても借地権設定者に不利となるおそれがないにもかかわらず、借地権設定者が賃借権の譲渡の承諾に応じない場合、借地権者は、裁判所に対して、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えるよう求めることができます(借地借家法19条1項)。
裁判所は、賃借権の残存期間、借地に関する従前の経過、賃借権の譲渡又は転貸を必要とする事情その他一切の事情を考慮し、借地権設定者の承諾に代わる許可を与えるか否かを判断することになります(借地借家法19条2項)。