不動産の財産分与⑮ ~妻の不動産の共有持分権を夫に分与するとともに、妻から夫への不動産の共有持分権の全部移転登記手続と、夫が妻に対して負担する金員の支払とを同時履行にすべきものとした事例(東京高判平成10・2・26)~ - 小西法律事務所(離婚の法律相談)離婚について弁護士への無料相談は、小西法律事務所(大阪市北区)まで

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不動産の財産分与⑮ ~妻の不動産の共有持分権を夫に分与するとともに、妻から夫への不動産の共有持分権の全部移転登記手続と、夫が妻に対して負担する金員の支払とを同時履行にすべきものとした事例(東京高判平成10・2・26)~

  • 不動産

 婚姻期間中に夫婦が取得した不動産は、その名義が夫または妻のいずれであるかにかかわらず、夫婦共有財産であり、財産分与との対象となります。

 本コラムでは、夫と妻が共有している不動産の財産分与が問題となった事例(東京高判平成10・2・26)について解説いたします。

事件の概要

原告:妻X

被告:夫Y

 妻Xと夫Yは、昭和49年に婚姻の届出をした夫婦であり、XY間には三女Zがいる(双子の長女、二女は、出生後間もなく死亡した。)。

 妻Xは公務員であり、夫Yは会社員(システムデザイナー)である。

 妻Xは、「夫婦間の婚姻関係は、主として夫Yの殴ったり蹴ったりする等の激しい暴行や他人の人格を顧みない行動によって破綻し、妻Xは、夫Yに対し、極度の恐怖心と嫌悪感を抱いており、最早回復の見込みがないから、三女Zの親権者を原告と定める離婚を求め、また、夫婦の持分各2分の1の共有財産である不動産の実質寄与割合は、妻Xが6割であるとして、妻Xの持分を夫Yに移転登記手続をするのと引換えに、夫Yに対し、財産分与としての清算金2560万円及び離婚慰謝料500万円の支払を求める旨主張して離婚訴訟を提起した。

 夫Yは、「妻X、夫Yの別居は、夫Yの暴力が原因ではなく(妻Xの主張するような酷い暴力を振るっていない。)、妻Xが将来夫Yの両親の面倒を見ることを嫌い、妻Xの母の面倒を見たいという妻Xのわがままで身勝手な性格・行動が原因であり、夫Yにおいて、妻Xと三女を交えた関係をより良いものに改め、円満な家庭を再構築するよう一段の努力をする決心であるから、妻X、夫Y間の婚姻生活は未だ破綻しておらず、その回復も十分に可能である旨主張して、離婚自体を争っている。

争点

  1. 離婚原因の存否
  2. 三女の親権者
  3. 財産分与の算定、分与方法
  4. 慰謝料請求権の有無、その額

原審での判断

  1. 原告と被告とを離婚する。
  2. XY間の三女Zの親権者を原告と定める。
  3. 被告は、原告に対し、原告が本件不動産の原告共有持分につき財産分与を原因として被告に持分全部移転登記手続をするのと引換えに、金2000万円を支払え。
  4. 被告は、原告に対し、金400万円を支払え。

高等裁判所の判断

 Yの控訴を受けて、本判決は、財産分与についての原判決第三項を変更し、Xに対し「Xは、Yに対し、Yから金1600万円の支払を受けるのと引き換えに、本件不動産のXの共有持分について財産分与を原因として持分全部移転登記手続をせよ。」と命じるとともに、Yに対し「Yは、Xに対し、Xから右不動産の持分全部移転登記手続を受けるのと引き換えに、金1600万円を支払え。」と命じた。

財産分与の対象及び資産価値

 控訴人と被控訴人とが婚姻中に形成した主要な財産は、本件不動産のみであるところ、本件不動産は、造成住宅地の中にあり、北側が道路に面しており、南側が斜面になっているところ、平成8年度における本件土地の固定資産課税標準額は、1978万8300円であり、本件建物の家屋課税台帳上の価格は、346万2705円である。

 取引事例及び本件土地の面積、本件建物の経過年数等に照らして考えると、平成9年11月27日現在の本件不動産の時価は3500万円を下ることはないと認めるのが相当である。

本件不動産取得の経緯及び寄与の割合

 控訴人と被控訴人は、昭和59年7月に本件不動産を3200万円で買い受け、本件土地については、同月10日売買を原因として同日受付で、控訴人及び被控訴人に持分各2分の1の所有権移転登記を経由し、本件建物については、同年8月20日受付で、控訴人及び被控訴人の持分各2分の1の所有権保存登記を経由した。

 被控訴人は、右売買に当たり、婚姻前から被控訴人が所有していたマンションを代金1600万円で売却し、右代金のうち750万円を本件不動産購入代金の支払に充て、そのほか、被控訴人名義で○○組合から250万円を借り入れて本件不動産購入代金の支払に充当した。右借入金を返済した後の残元金は、84万5178円である。

 また、被控訴人は、財団法人○○から被控訴人名義で510万円を借り受け、これを本件不動産の購入代金の支払に充当し、右借入金を弁済した。

 さらに、控訴人及び被控訴人は、連帯債務者となって、○○公庫から740万円を借り受け、これを本件不動産の購入代金の支払に充当した。右借入金の残元金は、529万4086円である。

 控訴人は、勤務先から控訴人名義で800万円を借り入れたほか、自己資金として150万円を本件不動産の購入代金に充てた。右借入金の残元金は、416万8538円である。

 なお、控訴人及び被控訴人が本件不動産購入のために借り受けた右各債務の既払分は、いずれも控訴人及び被控訴人が平等の割合で返済に貢献したものと推定される。

 前記認定の控訴人と被控訴人との婚姻期間及びその間の生活状況、控訴人と被控訴人とが本件不動産を購入するに当たって出捐した各人固有の財産額、その他諸般の事情を考慮すれば、本件不動産取得についての寄与の割合は、控訴人4割、被控訴人6割と認めるのが相当である。

財産分与の方法

 本件不動産には現在控訴人が居住しており、被控訴人は同所には居住していないこと、その他控訴人は本件不動産に継続して居住するためその所有権を単独で取得することを強く希望し、被控訴人はその所有権にはこだわらずむしろその代償として金銭の給付を求めている等の当事者双方の意見等を総合して考えると、本件不動産については、その被控訴人の持分を控訴人に分与して、これを全部控訴人に取得させることとし、これに対して控訴人から被控訴人に一定額の金銭を支払うべきものとする等して双方の利害を調整するのが一応相当であると考えられるところ、前記のとおりの本件不動産の取得に対する当事者双方の寄与の割合、残債務の状況、本件不動産の時価は前記のとおり3500万円程度と認められるが、本件不動産取得のために控訴人及び被控訴人が借り入れた前記認定の債務の残元金の合計額1030万7802円を控除した金額は2469万2198円であり、その6割である1481万5318円(1円未満切捨て。)に、被控訴人名義で○○組合から借り受けた債務の残元金84万5178円を加算した金額は1566万0496円となること、なお、前記○○公庫から借り受けた債務は控訴人と被控訴人の連帯債務となっているが、その残債務については、控訴人は財産分与の結果本件不動産を全部取得することが認められたときは、全部自己の負担において支払う意思を明らかにしていること、その他諸般の事情を考慮すると、控訴人が被控訴人に対し支払うべき額は1600万円とするのが相当である。そこで、本件財産分与の方法としては、被控訴人は控訴人に対し、本件不動産についての被控訴人の持分全部を分与してその移転登記手続をすべきものとし、控訴人は被控訴人に対し、1600万円を支払うべきものとし、右不動産の持分の移転登記手続と右1600円の支払とは同時に履行すべきものとするのが相当である。

コメント

 離婚に伴う清算的な財産分与は、夫婦各自の特有財産を除いて、その形成に寄与した割合等に応じて夫婦の実質的共有財産の清算を行うものです。 

本件では、夫婦の一方に不動産を分与することによって、寄与相当分と分与物件の評価額との差額相当分を過分に取得することに対して、その差額相当分を代償金として他方に支払うように命じています。

 そして、このような分与の方法が認められるとすれば、夫婦の一方の物件分与と他方の金銭給付とは、特段の事情がない限り双方の債務を同時履行とするのが妥当であると思われます。