不動産の財産分与⑯ ~自宅マンションの財産分与において妻の共有持分を清算的財産分与として夫に取得させたうえで、扶養的財産分与として妻に賃借権を設定した事例(名古屋高判平成21・5・28)~
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婚姻期間中に夫婦が取得した不動産は、その名義が夫または妻のいずれであるかにかかわらず、実質的共有財産であり、財産分与との対象となります。
本コラムでは、自宅マンションの財産分与において、妻の共有持分を清算的財産分与として夫に取得させたうえで、扶養的財産分与として妻に賃借権を設定した事例(名古屋高判平成21・5・28)を紹介いたします。
事件の概要
夫と妻は、平成6年に婚姻し、長女が生まれた。その後、平成11年に本件マンションを購入して、同所に移り住んだ。
夫は、平成15年6月頃以降、休日前日になると夜間に出掛けて、翌日帰宅するとか、深夜になって、急に帰宅できないと妻に連絡するとか、自宅でも携帯電話を手放さず、通話等は家の外に出て行なう等の行動を取るようになった。
実際には、夫は、氏名不詳の相手と不貞行為を繰り返しており、夫の行動を不審に思った妻が夫の持ち物を確かめたところ、同年9月頃以降、複数回にわたり、夫の財布の中等から、かなりの量のラブホテルの割引券や利用カード、あるいはホテルの名前入りのライター等が発見された。
夫は、同年11月には、妻に生活費を渡さなくなり、12月頃以降、離婚を求めるメールを、一方的に妻に送りつけた。
そのため、妻は、やむなく平成16年、家庭裁判所に夫婦円満調整と婚姻費用分担の調停を申し立てたが、夫は、平成16年3月には、転居先を隠したまま、本件マンションを出て別居を開始し、夫婦円満調整の調停は不調に終わった。
一方、婚姻費用分担の調停は、不調により、別件婚費審判に移行したが、妻と長女の家賃相当額を婚姻費用の分担額から差し引くよう、夫が強く主張したため、結局、家庭裁判所が算定した家賃相当額4万6148円等を控除した月額8万7000円の支払を夫に命ずる審判が出て、そのまま確定した。
その後、被控訴人(夫)が、①控訴人(妻)には性格の偏向、被控訴人に対する愛情の喪失、被控訴人の両親との不仲等があり、民法770条1項5号所定の離婚事由に該当すると主張して、控訴人との離婚を請求するとともに、②長女の親権者の指定と、③財産分与として、本件マンションの控訴人の共有持分(全体の1000分の117)の移転登記手続をするよう申し立てた。
これに対し、控訴人は本件婚姻関係の破綻を否認するとともに、被控訴人の請求は、有責配偶者の離婚請求であり許されないと主張して争った。
原審は、①本件婚姻関係は、本件夫婦の会話等の欠如、口論、別居等により破綻したと認めるとともに、控訴人の有責配偶者の抗弁を排斥して、被控訴人の離婚請求を認容し、②控訴人を長女の親権者と定めて、③被控訴人の主張に沿う財産分与を命じたため、控訴人が控訴した。
控訴人は、控訴審において、①被控訴人は、不貞行為をし(以下「本件不貞行為」という。)、正当な理由もなく別居して、控訴人を遺棄したから、民法770条1項1号、2号所定の離婚事由があると主張して、被控訴人との離婚及び損害賠償を請求するとともに、②長女の親権者の指定及び養育費の支払と、③財産分与及び年金分割を申し立て、被控訴人は、これらを争った。
主たる争点
財産分与において、不動産に賃借権を設定しうるか
裁判所の判断
妻は、本件婚姻前の昭和56年3月にd社に入社し、本件婚姻後の平成8年6月同社を退職した。退職金は303万1047円であり、妻は、そのほか同社から受給した賞与約200万円、厚生年金基金約62万円、失業保険や、従前貯めていた財形貯蓄の解約金約186万円を合せて、その大半を定額貯金にしていた。
本件マンションの購入代金は、約2800万円であり、そのほかに諸経費約280万円が必要だったが、そのうち2680万円は、夫が主債務者となって住宅金融公庫から融資を受けた。
その余の約400万円の前払代金・諸経費のほとんどは、…妻名義の定額貯金を解約してまかない、本件夫婦は、夫が全体の1000分の883、妻が同1000分の117の割合で本件マンションの共有持分の登記手続をした。
以上認定の事実によれば、本件マンションにつき、わざわざ妻の持分が共有登記されたのは、…前払代金・諸経費のほとんどを妻名義の財産によってまかなったことによると認められるところ、…妻が昭和56年3月にd社に入社し、平成8年6月に退職するまでの大半は、本件同居期間以前の時期に当たり、本件同居期間の分はわずかであること、②本件婚姻後に支払われた失業保険についても、上記①のような本件同居期間以前の妻の就労に対応する部分が大きいとみられること、…家事・育児はもっぱら妻が行なっており、本件婚姻後も、妻の就労に対する夫の貢献は極めてわずかであったと考えられること等を勘案すれば、上記のとおり、妻名義の財産によって取得された妻の持分は、その特有財産に当たると認めるのが相当である。
したがって、本件マンションは、①全体の1000分の117が妻の特有財産であり、②残り1000分の883だけが財産分与の対象となる本件共有財産というべきところ、…本件別居時の本件マンションの価額は、2000万円程度と見積るのが相当であるから、本件別居時の前者の価額を234万円、後者の価額を1766万円と認定することとする。
…本件別居は、夫による悪意の遺棄に該当し、…遠い将来における夫の退職金等を分与対象に加えることが現実的ではなく、更に一部が特有財産である本件マンションが存在するところ、このような場合には、本件婚姻関係の破綻につき責められるべき点が認められない妻には、扶養的財産分与として、離婚後も一定期間の居住を認めて、その法的地位の安定を図るのが相当である。
そして、…別件婚費審判において、夫が本件マンションの家賃相当分の控除を強硬に主張し、その結果、前記家庭裁判所の認定によって、その金額が4万6148円と定められた点や、…直接清算的財産分与の対象とすることが困難な退職金及び確定拠出年金についても、扶養的財産分与の要素としては斟酌することが妥当である点を考慮すれば、①清算的財産分与によって、本件マンションの夫の持分を夫に取得させるとともに、②扶養的財産分与として、夫に対し、当該取得部分を、賃料を月額4万6148円、賃貸期間を長女が高校を卒業する平成27年3月までとの条件で妻に賃貸するよう命ずるのが相当である。
コメント
扶養的財産分与とは、財産分与において考慮される「一切の事情には」、各当事者の年齢、心身の状況、職業、収入、稼働能力、特有財産を含む財産状況が含まれ、離婚後の扶養という観点で財産分与が認められる可能性があります。
本事案では、夫の退職金を分与対象に加えることが現実的ではなく、婚姻関係の破綻につき夫に責められる点が認められるため、妻の法的地位の安定を図るため、扶養的財産分与として離婚後も一定期間妻の本件マンションの居住が認められました。